2018年2月4日日曜日

67年を振り返って-7


父ちゃん母ちゃん二人で営業してる田舎の電気店は、私の実家に近い町だったので私は甲府市の歓楽街の貸家から実家に戻った。

夜はフクロウが鳴き、夜遅くには田舎道を狐や狸が徘徊するほどのド田舎なので、田舎暮らしが慣れるまで街のネオンが懐かしく寂しかった。

新しい勤務先となった電気店は50歳代の社長と、もう少し若い奥さんの二人で経営する普通の電気店だった。社長も奥さんも優しくて、昼食も夕食も毎日食べさせて戴くようになり、家電会社の勤務とは格段に幸せになった。給与は家電会社から支給されるので安定していた。
家電店への勤務の日にちが過ぎていくと、私はすっかり電気屋さんの店員が板についた。
それまでは問屋的な家電販売会社の環境が電気店では直接お客様と接する仕事となり、営業こそ店主の社長の仕事だが、販売できた家電品の納入、据え付けは一人で行ったり社長と一緒に行ったりと人間臭い仕事が多くなった。それは私にとっては楽しい仕事であった。
でも訪問する何処の家も年寄りばかり、若い人の姿は滅多に観ることがなく19歳の私としては寂しかった。

毎朝、お店に出勤するとシャッターを開け、お店の掃除、一日の仕事の確認、工具や材料の準備をして社長の運転する軽トラックで、私は助手席。
社長は技術屋さん的な人だったが話し好きだったから、私は様々な社長の体験談を毎日聴かせて貰った。
今に成れば、この時の社長との会話は物凄く私に影響を与えたと思う。社長は真面目な穏やかな人でお客様に好かれていた。でも本当は物凄くHな社長だった。怪しげな写真を見せてくれたこともある。

日々社長の話が進行すると最後には奥様との夜の生活まで話が及んだ。実にリアルな描写の社長の夫婦生活の話に、何も知らない私はワクワク楽しかった。
しかし、一日の仕事が終わって夕食を戴く時には、社長の居間にお邪魔して夕食を戴くので奥様も一緒になる。
昼間の話に、何も知らない奥様の顔を観るのが恥ずかしかった。
奥様は「由紀さおり」さんをもう少し可愛くしたような女性で魅力的だった。19歳の私でも社長が羨ましかった。しかし可愛い奥さんだが内面は気の強さを感じた。その証拠に社長は奥様の尻に敷かれていたからだ。
私の命盤は桃花性が強いが、きっとこの時にその芽が出たのかも知れない。それまでまったく女性にモテることはなく寂しい日々であった。
すっかり社長の家族に成りきってしまって、毎日毎日社長や奥さんと気軽に話せるようになっていて仕事も楽しかった。お客様も若い「店員」にお店の評価も良くなったらしい。


奥様は社長が留守の時でも、昼食はもちろん、夕食もキチンと用意してくれていた。
9時、最後のお客様訪問が終わってお店に戻り、シャッターを締めて片付けも終わり、社長のリビングにお邪魔する。奥様はいつものように夕食を作っていた。
「あら、宮崎くん、今日はね、お父さんは出張で遅くなるから夕食を食べたら一休みして帰っていいよ」
「そうですか、社長は遠くですか?」
「うん、多分夜中になるわね」
私は雑談をしながら夕食を戴き始めた。
奥様は出来たての料理をテーブルに運んでくれる。
リビングは8畳間程度で、板の間にコタツが置いてあり、奥様は流しに向かい背を向けている。
コタツに入ると、私としては家に帰ったような錯覚を覚えるのだった。
「お父さんね、宮崎くんは良くやってくれる、って喜んでいるよ」
「そうですかぁ」
私は照れた。
奥様は最後の料理を作り終えると私の座っているコタツの右横に座りニコッと見つめてきた。
こんな雰囲気始めてなので照れまくっていた私だった。


それから月日は流れ、そんなある朝、お店に出勤して掃除をしていると、「おはようございます」と若い娘さんがお店に入ってきた。
まん丸顔にどんぐりのような瞳、シュートカットに身長は1mちょっとのような愛くるしい人形のような女性でミニスカートの裾からちょっと逞しい脚が観えて、全体コロッとした印象の女の子だった。
「いらっしゃいませ」
女の子は人懐っこく終始ニコニコ。
「え~と、何かお求めですか?」
早朝から女の子がお店に入って来て、私の顔をじっと観てニコニコしているだけなので困ってしまった。私もつられて黙ってニコニコ。
「あのね、今日からここのお店番するの」
「えっ? お店番?」
ちょっと意味が分からなかった。
そうしていると奥から奥様が現れた。
「ああ、宮崎くん、今日からね、ここで働いてくれる山本さんよ」
「山本さんですか、店員さんなんですね」
奥様はニコッと。
「そうよ、私が年中お店に出ていられないのでお店番してくれる人を探していたの」
私は嬉しくなった、どこのお客様の家に行っても爺さん婆さんしか居ないからだ。

奥様はお婆ちゃんの介護も有るので年中お店に出ていられないのだ。
山本さんは、その日からお店番となった。事務仕事がある訳でも無いから、お店の掃除と来店のお客様の応対、そして電話番が主な仕事だ。
山本さんにはバネが仕掛けられているようにいつも元気にピョンピヨンとお店の中を動き回っていた。
私の中には、そんな山本さんを眺める楽しみが出来始めた。
何処と無く相性の良さを感じた私は気軽に山本さんに話しかけていた。山本さんも私には全く気遣いなどしていない様子だった。ずっと昔からの知り合いみたいに。

それから一ヶ月も経たない内に私と山本さんは休日にはドライブに行くまでになっていた。
社長にも奥様にも、このことは内緒にしていて気付かれないようにしていたが、ある日奥様から。
「宮崎くん、山本さんのこと好きなの?」
突然、突拍子もない質問が飛び出してきた。
私は一切を悟られたくなかったので「いいえ」と軽く否定した。
「そう? 山本さんが宮崎さんとドライブに行った。って言っていたからね」

私は、「お喋りだなあ山本さんは・・・」と思った。

「はい、先日、箱根にドライブには行きました」

奥様は何が言いたげだったけど「そう・・・」とだけ言い残してお店の奥に消えた。
その日は、山本さんは用事が有って出勤していなかった。

それから数日経っても山本さんは出勤して来なかった。

私は山本さんの家を尋ねた。年老いたお母さんが居た。山本さんは電気店を辞めて県外に行ってしまったそうだ。

「何故? 奥様に何か云われたの?」そう思った。
私は不吉な思いがよぎった。

それから数日後に奥様に聞いた。
「奥さん、山本さんはずっと出勤して来ないけど、どうかしたんですか?」
「あの子、辞めたの。というか辞めて貰ったの」
「どうしてですか?」

「う~ん…。宮崎くんには、もっとふさわしい人が出来るわよ」
私は平穏を装った。

それからの日々は電気店へ出勤するのが楽しく無くなった。

そして、それから数ヶ月後、私は電気店を辞めた。


<続く>


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